第3回:~3段階で迫る、我が国の高齢者雇用法規制の手法~ <連載>定年後再雇用制度の歴史と展望(全5回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!

シリーズ第3回となる今回は、いよいよ高年法の2大改正、すなわち平成16年(2004年)改正と平成24年(2012年)改正に踏み込んでいきます

我が国の労働法制では、企業に新たな負担を課す規制は、ある決まった手順を踏んで強化されていきます。

その手順を一度頭に入れておきますと、これから先の70歳就業確保措置の動向についても、かなり精度の高い予測が立つようになります。

社労士の先生方や人事ご担当者にとって、極めて実用性の高い視点ですので、ぜひお持ち帰りください。

1.我が国の労働法制における「段階的義務化」の作法

政府が企業の経営の自由を制限する新たな規制を導入しようとする場合、いきなり罰則付きの完全義務として法制化することは、ほとんどございません。

まずは「努力義務」という形で法律に書き込み、行政指導の根拠としつつ、社会的な議論を喚起し、企業に制度的準備の期間を与えます

そして実態調査などを経て一定の環境が整ったと判断された段階で、ようやく「義務化」へと一段引き上げる。

さらに必要があれば、義務化と同時に設けた例外規定を後年の改正で撤廃し、「完全義務化」へとたどり着く――この3段階のステップが、教科書的な作法として確立しています。

65歳までの雇用確保措置は、まさにこの作法を絵に描いたように歩んできた制度です

2.平成16年改正 ── 義務化への第1歩と「労使協定基準」という抜け道

2000年代初頭まで、65歳までの雇用確保はあくまで企業の努力目標にとどまっていました

しかしながら、公的年金の支給開始年齢の段階的引上げが現実のものとして進行する中、雇用と年金の接合はもはや一刻の猶予も許されない喫緊の課題となります。努力義務による緩やかな行政指導だけでは、人件費の高騰や組織の高齢化を警戒する企業の行動変容を促すには、明らかに力不足だったわけです。

こうした危機感のもと、第1の法的転換点となったのが平成16年(2004年)の高年法改正です

この改正により、65歳までの雇用確保措置として、「定年の引上げ」「継続雇用制度(定年後再雇用等)の導入」「定年の定めの廃止」のいずれかの措置を講ずることが、法律上初めて事業主に対して明確に義務付けられました。

労働市場におけるエポックメイキングな出来事ではありますが、この段階での義務化は、実は「完全な義務」とは言い難い、強い妥協を含んだものでした。

具体的には、事業主が過半数労働組合等と労使協定を締結することにより、継続雇用制度の対象となる高年齢者の「基準」を独自に定めることが、例外として容認されていたのです

【押さえておきたいポイント】

平成16年改正は、65歳までの雇用確保措置を「義務化」した画期的な改正。
ただし、労使協定により「継続雇用の対象者基準」を企業独自に設定することが認められていた
この基準が、企業による事実上の「選別」を可能にする抜け道となった。

3.「対象者基準」がもたらした構造的欠陥

対象者基準の容認は、企業側からの強い反発に対する政治的配慮として組み込まれた仕組みです。企業はこの仕組みを上手に活用しました。

制度として継続雇用制度を導入し、法律の要件を形式的に満たしつつも、労使協定の中に「直近数年間の人事評価が一定水準以上であること」「健康状態が就業に耐えうること」「出勤率が規定を満たすこと」といった厳格なフィルターを設けることが可能だったわけです。

その結果、何が起きたか。

高年齢者ご本人がいくら継続雇用を強く希望されても、企業側の基準を満たさないと判断されれば再雇用を拒否され、結果として無収入期間に陥ってしまう労働者が、依然として相当数発生しました

これは、雇用と年金の接合というセーフティネットの根幹に関わる、構造的な欠陥として強く問題視されるようになります。

年金支給開始年齢の引上げが本格化していく中で、こうした選別的な運用は、国民の生活不安を増幅させる要因として、政治的にもいよいよ放置できない状態になってきました。

4.平成24年改正 ── 例外規定の撤廃による「完全義務化」

そして第2の転換点として断行されたのが、平成24年(2012年)の高年法改正です

この改正の最大の眼目は、平成16年改正で設けられていた「労使協定による継続雇用対象者の基準」を、全面的に廃止したことに尽きます。

これにより、企業による労働者の選別は法的に禁じられ、「希望する者全員」を65歳まで継続雇用することが、例外なき完全な法的義務として確立されました

一部の優秀な人材だけでなく、働く意欲のあるすべての高年齢者を包摂する仕組みへの移行が、ここでようやく完成したわけです。

もちろん経過措置として、改正法施行時点で既に労使協定による基準を設けていた企業については、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが段階的に縮小される形で残されました。

しかし、政策の方向性としては明確で、2025年3月末をもってこの経過措置も終了し、現在では文字どおり「希望者全員の65歳までの雇用確保」が完全に実現しています

5.3段階強化サイクルから読み取れること

このプロセスを俯瞰しますと、高年法の規制強化は「努力義務(理念の提示)」「原則義務化と基準等による例外の容認」「例外規定の撤廃による完全義務化」という、緻密に計算された3段階を経て進められてきたことが分かります

この理解は、単に過去の制度史を学ぶための知識ではありません。現在「努力義務」として施行されている70歳までの就業確保措置が、これから先どのような軌跡をたどって完全義務化に至るのか――それを予測するための、最も信頼できる物差しとなります。最終回でこの予測を本格的に展開いたしますので、今回ご紹介した3段階のサイクルを、ぜひ頭の片隅に留めておいていただければと存じます。

6.今回のまとめ

本日のポイントを振り返っておきましょう

第1に、我が国の労働法制では「努力義務 → 例外付き義務化 → 例外規定撤廃による完全義務化」という3段階の作法が確立されています。

第2に、平成16年改正は65歳までの雇用確保を初めて義務化した画期的な改正でしたが、労使協定による対象者基準という大きな抜け道がありました。

第3に、平成24年改正でその抜け道が完全に塞がれ、「希望者全員の65歳までの雇用確保」が完全義務として確立しました。

次回は、こうして完全義務化された65歳雇用が、現在の企業現場でどのように運用されているのかを、最新の実態データとともに見ていきます

約7割の企業が「継続雇用制度」を選んでいる理由、賃金の崖の実態、そして無期転換ルールとの衝突を緩和する第二種認定計画の重要性まで、踏み込んでお話しいたします。

次回予告:第4回 「65歳雇用の現場で起きていること ─ 7割が継続雇用を選ぶ理由と、第二種認定計画という縁の下の力持ち」

次回は、現在の65歳雇用確保措置の運用実態を、厚生労働省と人事院の最新データから読み解きます

継続雇用制度69.2%という偏重の理由、60歳前後で生じる賃金の崖、同一労働同一賃金との緊張関係、そして無期転換ルールとの衝突を救う第二種認定計画について、社労士目線で解説していきます。

 

■誰よりも顧問先を大切にしたい社労士の皆様へ!
「3アカデミー」オンラインサロンでは、さらに踏み込んだノウハウも共有していますので、ぜひご参加ください!
↓↓↓
https://academy.3aca.jp/2024a/