第4回:65歳雇用の現場で起きていること~7割が継続雇用を選ぶ理由と、第二種認定計画という縁の下の力持ち~ <連載>定年後再雇用制度の歴史と展望(全5回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!

シリーズ第4回となる今回は、いよいよ現場の話です。

完全義務化からすでに10年以上が経過した65歳雇用確保措置は、我が国の企業現場でどのように運用されているのでしょうか。

最新データと、その裏側にある構造的課題、そして実は労働市場全体を支えている「縁の下の力持ち」の存在まで、じっくり見ていきます

1.7割が選ぶ「継続雇用制度」 ── 数字で見る現状

令和5年(2023年)の厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果をもとに人事院が作成したデータによれば、民間企業が採用している高年齢者雇用確保措置の内訳は、次のとおりとなっています。

雇用確保措置の種類 採用している企業の割合
継続雇用制度の導入(定年後再雇用等) 69.2%
定年の引上げ 26.9%
定年制の廃止 3.9%

※ 令和5年「高年齢者雇用状況等報告」集計結果(厚生労働省)を基に人事院が作成

この統計が明確に示しているのは、全企業の約7割に及ぶ69.2%が、定年そのものを引き上げるのではなく、いったん60歳等で定年退職させた後に有期労働契約等で再雇用する「継続雇用制度の導入」を選んでいるという、圧倒的な偏重の実態です。

定年の引上げや定年制の廃止を採用する企業は、依然として少数派にとどまっています

2.なぜ企業は「継続雇用」に集中するのか

企業が定年の引上げを躊躇し、継続雇用制度をこぞって採用する最大の理由は、日本特有の雇用システムである「年功序列型賃金」の構造にあります

職能資格制度に基づき、年齢とともに上昇する賃金カーブを65歳までそのまま延長することは、企業にとって莫大な総額人件費の高騰を意味します。

これに対して、継続雇用制度(再雇用)という形式をとれば、60歳到達時点で過去の無期労働契約を一旦リセットし、新たに有期労働契約を結び直すことが法的に可能となります。

これにより、企業は従来の役職や等級から労働者を外し、まったく新しい、すなわち大幅に引き下げられた賃金水準で雇用を維持することが容易になるわけです

もちろん、これが労働者にとって優しい仕組みかと言われれば、必ずしもそうではありません。むしろ、ここから先にお話しする「賃金の崖」と「同一労働同一賃金との緊張関係」という、2つの大きな課題が立ち上がっていきます。

3.「賃金の崖」── 実態調査が示す急落の構造

再雇用に伴う賃金水準の断層は、極めて深刻です。実態調査のデータによれば、50代後半のピーク時の平均的な年収水準と比較した場合、60代前半(60歳から64歳)の年収水準は全体平均で75%前後にまで急落いたします。

さらに年齢が上がり60代後半(65歳以降)になりますと、年収水準はピーク時の60%前後にまで落ち込む傾向が確認されています。

より細かく見ますと、60歳直前の給与水準と比較した61歳時点の平均的な年収水準は、65歳定年(定年延長)を採用している企業では90.2%と比較的高い水準を維持しているのに対し、60歳定年(定年後再雇用)を採用している企業では75.2%と、約2.5割の大幅な減額となっています

さらに、企業規模が大きくなるにつれて絶対的な年収水準は高くなるものの、再雇用時における減額率もそれに比例して大きくなる傾向が顕著です。すなわち、大企業ほど定年延長には消極的であり、再雇用時の賃金カット幅が過酷であるという実態が浮き彫りになっているわけです。

制度 60歳直前を100とした場合の61歳時の年収水準
65歳定年(定年延長)を採用する企業 90.2%(約1割減)
60歳定年(定年後再雇用)を採用する企業 75.2%(約2.5割減)

※ 60歳以降の給与相場・平均データの調査結果比較(業界調査)より

4.人事マネジメントが直面する3つの課題

この劇的な賃金低下は、単なる懐具合の問題にとどまらず、労働法務および人事マネジメントの観点から、企業に深刻な課題を突きつけています

第1に、令和2年(2020年)以降本格的に適用が開始された「同一労働同一賃金の原則」との抵触リスクです。再雇用前後で職務内容や責任の程度がまったく変わらないにもかかわらず、単に「定年を通過したから」という理由だけで基本給や賞与を大幅にカットする運用は、不合理な待遇格差として司法の場で厳しく問われる事例が頻発しています。

第2に、高齢社員のモチベーションの著しい低下です。長年培ったスキルと経験をお持ちでありながら、新入社員並みの待遇で補助的な業務に従事させられるとなれば、ご本人の意欲を削ぐだけでなく、周囲の若手・中堅社員に対しても「自らの将来像」に対する失望感を与え、組織全体の士気低下や離職を誘発する原因となります。

第3に、職務・役割の再定義を抜きにした一律の賃金カットでは、もはや人事制度として持続可能性を保てないという根本的な課題です。年齢という単一の基準に依存した処遇から脱却し、職務・役割の明確な再定義と、それに基づく納得感のある新たな賃金設計へと、人事制度を根本から改修することが、企業にとって待ったなしの急務となっています。

5.無期転換ルールとの衝突 ─ 65歳目前の地雷

65歳までの継続雇用制度が我が国の基本的な雇用インフラとして定着する中で、労働法制上に予期せぬ巨大な「矛盾」と「摩擦」が生じることになりました

それが、平成25年(2013年)4月1日に施行された改正労働契約法第18条に基づく「無期転換ルール」との衝突です。

無期転換ルールとは、同一の使用者との間で有期労働契約が更新されて通算5年を超えた場合、労働者からの申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる権利が法的に発生する、という強力な労働者保護規定です

本来の趣旨は非正規雇用労働者の雇用の安定を図ることにあったわけですが、これを全企業の約7割が採用している「定年後再雇用制度」に当てはめると、企業経営を揺るがす深刻な事態が引き起こされます。

60歳定年の企業において、定年退職後に1年ごとの有期労働契約で再雇用された労働者を想定してみましょう。この方が順調に契約更新を重ねていきますと、65歳に達する直前の時点で、有期契約の通算期間がちょうど5年を超えることとなります。

この瞬間に無期転換申込権が発生し、労働者の方が権利を行使すれば、企業は当該高齢者を「期間の定めのない正社員」として、事実上解雇が極めて困難な状態で半永久的に抱え込まなければならなくなるわけです

この法的リスクを回避しようとする企業の合理的な防衛行動は、極めて冷酷なものとなりかねません。すなわち、無期転換申込権が発生する直前―通算5年を迎える直前の64歳の時点で、雇い止めを断行することです。

しかし、これは高年法が目指してきた「意欲ある高齢者の安定した雇用確保」という国家的な政策目標と真正面から対立し、制度を根底から破壊してしまいかねません。

6.第二種認定計画 ─ 2大法体系の衝突を和らげる「緩衝材」

この制度的矛盾を解消し、高齢者雇用の崩壊を防ぐための緊急避難的な措置として、平成27年(2015年)4月1日に「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」が施行され、無期転換ルールの特例が創設されました

この特例には、対象者の属性に応じて大きく2つの区分があります。

一つは「第一種認定計画」で、高度な専門的知識等を有する高年収(おおむね1075万円以上)の有期雇用労働者を対象とする特例です。対象が極めて限定的なエリート層に限られるため、社会全体における適用範囲は局所的なものにとどまっています。

これに対して、我が国の雇用システム全体を支える巨大なインフラとなっているのが、もう一つの「第二種認定計画」です

これは、定年に達した後、引き続き当該事業主(または、そのグループ企業)に雇用される有期雇用労働者、すなわち「継続雇用の高齢者」全般を対象とする特例です。

適用を受けるためには、企業は適切な雇用管理に関する計画を作成し、管轄の都道府県労働局長から正式な認定を受ける必要があります。

具体的には、再雇用後の賃金制度、労働時間、配置基準、健康管理体制など、厚生労働省が定める雇用管理措置に基づくルールを就業規則や雇用契約書等に明記し、その証拠書類を労働局に提出して審査を経なければなりません。

この認定を受けた事業主の下で継続雇用される期間中に限り、有期労働契約が通算5年を超えても、例外的に無期転換申込権が発生しない仕組みとなっています。

【社労士の先生方への実務メモ】

第二種認定計画の対象は「自社(またはそのグループ会社)で定年を迎えた後に再雇用された者」に限定されます

「他社で定年を迎えた後に中途採用された者」や「定年前にすでに無期転換申込権を行使している者」は対象外となります。
クライアント企業の就業規則整備とセットで、認定申請の支援は3号業務として大きな価値を提供できる領域です。

7.「縁の下の力持ち」としての第二種認定計画

全企業の実に69.2%が継続雇用制度によって高年齢者の雇用確保義務を果たしている現状を踏まえれば、もし第二種認定計画が存在しなければ、これらすべての企業が「5年目の雇い止め」か「無期転換による事実上の終身雇用」かという、究極の二者択一を迫られることになります。労働市場は瞬時に大混乱に陥ったことでしょう。

したがって、第二種認定計画の認定実態は、特定のニッチな制度の利用といったレベルではありません。

69.2%の企業群が法的なコンプライアンスを維持しながら高年齢者を雇用し続けるための「絶対的に不可欠な防衛策」として、全国の労働局において膨大な数が処理され、企業の就業規則に組み込まれているという構造的実態があるわけです

結論として、第二種認定計画は、労働者保護を目的とした労働契約法と、雇用延長を目的とした高年法という、二つの巨大な法体系の衝突を和らげる「緩衝材」として極めて重要な役割を果たしています

この特例なくして、現在の日本の高齢者雇用体制は一日たりとも成立し得ないと申し上げても、過言ではございません。

8.今回のまとめ

本日のポイントを振り返っておきましょう。

第1に、企業の約7割が継続雇用制度を選択しており、その背景には、定年でいったん無期労働契約をリセットし、年功序列型賃金カーブから外れた低い水準で再契約したいという経営側の強い動機があります。

第2に、もはや定年後再雇用後も年功賃金をそのまま維持することは難しい一方、同一労働同一賃金原則との緊張関係、高齢社員のモチベーション低下、そして少子高齢化による構造的な人手不足という現実が重なり、経営側は「賃金を下げ切れず、さりとてシニア人材なくして事業も回らない」という板挟みの中でシニア処遇の再設計を迫られています。

第3に、このジレンマを打開する鍵として、年齢と勤続年数に連動する従来の年功・職能型賃金から、職務の価値に基づく「ジョブ型賃金」への移行が実質的な解として浮上しており、これは定年後再雇用時の賃金崖を和らげるだけでなく、現役世代を含めた人事制度全体の再設計を意味します。

第4に、無期転換ルールとの衝突を回避し、現行制度を成立させているのが「第二種認定計画」という特例の仕組みであり、これは我が国の雇用インフラを支える縁の下の力持ちと言えます。

次回は、いよいよシリーズの最終回です。

「70歳までの就業確保措置」という新たな努力義務の現状と、それがいつ完全義務化に至るのかについて、過去の高年法改正サイクルを踏まえた具体的な将来予測まで踏み込んでお話しいたします

次回予告 ─ 第5回 「70歳までの就業確保 ── 努力義務の現状と完全義務化への道筋」

シリーズ最終回は、令和3年(2021年)改正で創設された「70歳までの就業確保努力義務」を深掘りいたします

「雇用」から「就業」への概念拡張、業務委託や社会貢献事業という新しい選択肢、そして令和12年(2030年)前後と予測される完全義務化のシナリオまで、我が国の雇用政策の未来像を読み解いていきます。シリーズ全体の総括もここで行います。

 

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