こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
前回は賃金支払5原則の全体像と「通貨払いの原則」について解説しました。
今回は第2の原則である「直接払いの原則」について詳しくお伝えします。
この原則、一見シンプルに見えますが、実務では「使者」と「代理人」の区別という非常に判断が困難な問題があります。
直接払いの原則とは何か?
直接払いの原則とは、賃金は中間搾取(いわゆるピンハネ)を排除し、労働者本人に確実にその全額が渡るようにするため、直接その労働者に支払われなければならないとする原則です。
たとえ労働者本人が指定したとしても、その親権者やその他の法定代理人、あるいは委任を受けた任意代理人に賃金を支払うことは、原則として違反となり無効です。これは未成年の労働者であっても同様で、親権者が代わりに受け取ることは禁止されています。
なぜこの原則が必要なのか?
この原則の背景には、労働者の経済的弱者としての地位を保護する目的があります。
賃金が第三者の手を経ることで、その途中で着服されたり、不当に一部を差し引かれたりするリスクを防ぐためです。また、労働者が自分の賃金を直接管理できる権利を保障する意味もあります。
重要な例外:「使者」への支払い
しかし、現実には労働者本人が病気などで直接受け取れない場合があります。このような場合に認められるのが「使者」への支払いです。
「使者」とは、本人の意思決定を代行するのではなく、単に本人の意思を伝えたり、完成した意思表示に基づいて機械的に受領行為を行ったりする者を指します。典型例は、病気で寝ている夫の代わりに妻が給与を受け取りに来るケースです。
「使者」と「代理人」の決定的な違い
ここが実務上最も重要なポイントです。「使者」と「代理人」の区別は以下のとおりです。
使者は本人の意思を伝達・実行するだけで、意思決定権はありません。一方、代理人は本人に代わって法律行為を行う権限を与えられており、代理権の範囲内で自ら意思決定を行います。
法的効果も大きく異なります。使者への支払いは本人への支払いと見なされますが、代理人への支払いは原則として直接払いの原則違反となります。
もし代理人が受領後に賃金を紛失した場合、使用者は再度本人に支払う義務を負う可能性があります。これは企業にとって大きなリスクとなります。
最高裁判例から学ぶ重要なポイント
小倉電報電話局事件(最高裁昭43.3.12)では、労働者がその賃金債権を第三者に譲渡したとしても、直接払いの原則は依然として適用されるため、使用者は労働者本人に対して賃金を支払わなければならないと判示されました。
この判例は、直接払いの原則が強行法規的な性格を持つことを明確にした重要な判決です。
つまり、労働者が自分で「この人に払ってください」と言ったとしても、それが代理行為であれば無効だということです。
昭63.3.14基発第150号の行政通達では、労働者本人が第三者に対して賃金の受領権限を付与する旨の委任や代理の法律行為は無効であるとされています。
実務上の対応策
では、実際の現場ではどう対応すべきでしょうか。
まず原則として、可能な限り本人名義の口座への振込を優先するよう指導します。これが最も安全で確実な方法です。
やむを得ず第三者が受け取りに来た場合は、「使者」か「代理人」かを慎重に判断する必要があります。判断基準は、社会通念上、本人に支払うのと同一の効果を生ずるような者であるか否かです。
具体的には、本人の明確な依頼を示す書面(使者差向書)を徴求し、本人の状況確認を行い、社会通念上の妥当性を検証します。
疑義がある場合は、安易に使者への支払いと判断せず、原則通り労働者本人への直接支払いを求めましょう。
高校生アルバイトでよくある誤解
実務でよく見かけるのが、高校生のアルバイトの賃金を保護者の口座に振り込むケースです。
これは直接払いの原則に抵触する可能性が高いため、企業に対して注意を促し、本人名義の口座への振込を原則とするよう指導する必要があります。
未成年者であっても、労働基準法上は独立して賃金を請求する権利を有するため、親権者であっても代理受領は認められません。
まとめ
直接払いの原則は、労働者の賃金を中間搾取から守る重要な原則です。「使者」と「代理人」の区別は実務上非常に重要で、判断を誤ると企業に大きなリスクをもたらします。
安全な運用のためには、可能な限り本人名義の口座振込を原則とし、例外的な取扱いは最小限に抑えることが重要です。やむを得ない場合でも、慎重な確認手続きを経て、紛争予防に努めましょう。
次回は、賃金支払5原則の第3の原則「全額払いの原則」について解説します。
この原則には相殺の禁止という重要な論点があり、多くの判例も蓄積されています。お楽しみに!
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