【第1回】私傷病休職制度の基礎知識と法的位置づけ <連載>私傷病休職と復職の諸問題


こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!

今回から8回にわたって、企業実務で必ず直面する「私傷病休職と復職」について、判例や最新の統計データを踏まえながら、丁寧に解説していきます。

この制度、多くの企業で導入されていますが、正しい理解と運用ができていないと、思わぬトラブルになることも。まずは基本的な概念から見ていきましょう。

私傷病休職制度とは何か?

私傷病休職制度とは、従業員が業務外の事由による傷病(私傷病)により就労できなくなった場合に、企業が解雇を猶予し、従業員としての身分を保持したまま一定期間の休養を認める制度です

この制度の主たる目的は、従業員が治療に専念し、健康を回復して円滑に職場復帰できるよう支援することにあります。

労働基準法等の法律で直接的に義務付けられているものではなく、各企業が就業規則や労働協約に基づいて任意に設けるのが一般的です。この点が、労災による休業とは大きく異なる特徴となります

なぜ企業は私傷病休職制度を設けるのか?

企業がこの制度を設ける理由は、従業員と企業の双方にメリットがあるからです

従業員にとっては、治療期間中の雇用継続という生活保障の側面があります。また、企業にとっては、経験ある従業員の離職を防ぎ、人材を確保するという点で、大きな意味を持ちます。特に、技能や経験を積んだ貴重な人材を、一時的な健康問題で失うことなく、回復を待つことができるのです。

制度導入の現状を数字で見ると

労務行政研究所が2024年に実施した調査結果を見ると、企業における私傷病休職制度の整備状況が明確に示されています。

この調査によりますと、実に99.7%という非常に高い割合の企業が「休職」に関する規定を有していることが分かります

また、84.5%の企業が「欠勤」に関する規定を設けており、多くの企業が短期の休みと長期の休職を丁寧に区別して規定していることが伺えます。

さらに、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の2013年の調査では、常時雇用労働者50人以上の企業のうち、71.4%が就業規則等に病気休職制度を規定し、8.9%が慣行として有していました。つまり、合計で約80%を超える企業が何らかの形で病気休職制度を運用していることになります。

法的な位置づけと就業規則の重要性

私傷病休職制度は、労働基準法に具体的な定めがなく、その内容や運用は各企業の就業規則に委ねられています

企業が休職制度を設ける場合、その内容を就業規則に明記し、従業員に周知する義務があります(労働基準法施行規則第5条第11号)。

この就業規則が法的な効力を持つためには、「合理的な労働条件」を定めている必要があります(労働契約法第7条)。つまり、就業規則が私傷病休職制度の根幹をなすため、その規定内容の明確性と網羅性が極めて重要となるのです。

曖昧な規定や実態と乖離した規定は、後の紛争の火種となりかねません。
例えば、休職命令の発令要件、休職期間、復職の手続き、休職期間満了時の取り扱いなどが具体的に定められているかを確認する必要があります

私傷病と労災の重要な区別

ここで特に注意していただきたいのが、私傷病と労災の区別です

従業員の傷病、特に精神疾患が長時間労働や職場におけるハラスメント(パワーハラスメント等)に起因する疑いがある場合、私傷病休職としての取り扱いとは別に、労働災害(労災)としての対応を検討する必要があります。

労災と認定された場合、法的取り扱いは大きく異なります。まず、労働基準法第19条により、業務上の傷病による休業期間中およびその後30日間の解雇が原則として禁止されます。私傷病休職の規定に基づき、休職期間満了をもって雇用を終了させるという通常の対応が、労災事案においては認められない可能性が高まります。

制度運用における基本的な考え方

私傷病休職制度を適切に運用するためには、以下の基本的な考え方を理解することが重要です。

まず、この制度は「一時的な健康問題により就労できない従業員を支援し、回復後の円滑な職場復帰を促進する」ことが目的であることを明確にすることです

単に企業の都合で従業員を一時的に職場から離すための制度ではありませんし、逆に従業員が無制限に休むことを許可する制度でもありません。

次に、制度の運用には医学的な判断が必要不可欠であることです。主治医の診断書を基礎としつつも、産業医の意見や企業としての職場復帰への配慮なども総合的に判断する必要があります。

まとめ

私傷病休職制度は、従業員の健康保持と企業の人材確保を両立させる重要な制度です

統計データが示すように、ほとんどの企業で何らかの形で導入されていますが、その内容や運用方法は企業によって様々です。

最も重要なのは、就業規則における明確な規定と、それに基づいた適切な運用です。曖昧な規定や不適切な運用は、労使双方にとって不利益をもたらすリスクがあります

次回は、私傷病休職命令の発令手続きと、その際の重要な留意点について詳しく解説します。特に、就業規則に基づく適切な手続きの進め方や、複雑なケースへの対応について、具体的にお伝えしていきます。

 

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