第3回:健康診断は「実施して終わり」ではない — 労働安全衛生法第66条の全体像 <連載>労務管理と健康管理の実務 — 2026年から2028年の法改正を読み解く(全6回)

こんにちは、分かりやすさNo.1 社労士の先生の先生、岩﨑です!

健康診断は、健康労務のなかでもっとも古くから定着している制度です。それだけに、実施することが目的化し、事後措置や記録の部分が手薄になっている企業が少なくありません。第3回は、条文に沿って一連の仕組みを確認したうえで、2027年4月に迫った検査項目の見直しまで押さえます。

実施義務と受診義務は表裏の関係にある

健康診断は労働安全衛生法第66条に基づく制度で、事業者は労働者に対し、医師による健康診断を行わなければなりません。一般健康診断の対象は「常時使用する労働者」であり、パートタイム労働者等についても、雇用期間と所定労働時間の要件を満たせば対象となります。定期健康診断の頻度は1年以内ごとに1回です。

見落とされがちなのが、同条第5項です。労働者は、事業者が行う健康診断を受けなければならないと定められており、受診は労働者側の義務でもあります。ただし労働者側に罰則はありません。

罰則が向けられているのは事業者側で、健康診断を実施しなかった場合等には50万円以下の罰金が定められています(第120条)。受診率が上がらないという相談を受けたときは、就業規則に受診義務を明記しているか、まずそこを確認するとよいでしょう。

事後措置までが制度の設計

健康診断の要は、実施した後にあります。事業者は、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、その健康を保持するために必要な措置に関し、医師の意見を聴かなければなりません(第66条の4)。そして、その意見を勘案し、必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な措置を講じなければならないとされています(第66条の5)。あわせて、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対しては、医師や保健師による保健指導が求められます。

この流れは、次回に扱う予見可能性と結果回避義務の構造に、そのまま対応しています。健診結果は「知り得た危険」であり、意見聴取と就業上の措置は「回避のために尽くした措置」にあたります。ここが空白になっていると、危険を知りながら放置したという評価を招きかねません。

記録と報告 — 個人票は5年保存

事業者は、健康診断の結果に基づき健康診断個人票を作成し、5年間保存しなければなりません(第66条の3、労働安全衛生規則第51条)。

また、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出する必要があります。経年の記録が残っているからこそ、数値の変動から変化を早期に把握でき、後に立証の資料ともなります。

省略基準の運用に注意 — 年齢による一律省略は不可

定期健康診断では、労働安全衛生規則第44条第2項および厚生労働大臣が定める基準により、医師が必要でないと認めるときは一部の項目を省略できます。ここで実務上の落とし穴があります。この省略は、個々の労働者について健康状態の経時的な変化や自覚症状等を勘案し、医師が判断する場合に限られます。

人事担当者や健診機関の事務スタッフが「35歳未満だから血液検査は一律で外す」といった事務的な判断を行うことは、適正な運用とはいえません。厚生労働省もこの点を明確に注意喚起しています。健診機関への申込みの段階で、年齢のみを理由とした機械的な省略が行われていないか、運用フローを確認しておきたいところです。

2027年4月、検査項目が見直される

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(2026年厚生労働省令第89号)および関係告示(同年厚生労働省告示第204号)が2026年4月28日に公布され、2027年(令和9年)4月1日から施行されます。約20年ぶりの本格的な項目見直しです。

[表]2027年4月1日施行の一般健康診断項目の見直し

項目 改正の内容 実務上の留意点
血清クレアチニン検査 雇入時、定期、特定業務従事者、海外派遣労働者の各健康診断に追加 慢性腎臓病の早期発見が目的。定期健康診断等では、40歳未満の者について医師が必要でないと認めるときは省略可
喀痰検査 定期、特定業務従事者、海外派遣労働者の各健康診断から廃止 胸部エックス線検査の結果を踏まえ、結核感染が疑われる者への受診勧奨で対応する
肝機能検査 酵素名を変更(GOTはAST、GPTはALT、γ-GTPはγ-GTへ) 健診機関からの結果通知について、必要に応じ新旧名称の併記も差し支えないとされている
臨時の健康診断 高度プロフェッショナル制度の臨時の健康診断にも血清クレアチニン検査を追加 制度を導入している場合は労使委員会の決議内容の確認・更新が必要

なお、女性特有の健康課題に関する問診についても触れておきます。2026年4月28日付けで一般健康診断問診票を含む通知の別紙が改正され、月経困難症や更年期症状等に関する質問が追加されました。ここは説明を誤りやすいところです。この問診の実施自体は事業者の義務ではなく、個々の回答も健診機関から事業者へは提供されません。目的は労働者本人の気づきと受診勧奨にあり、事業者側に求められるのは、相談窓口の整備など、本人が申し出やすい環境を用意することです。

第3回のポイント

健康診断は、実施義務(第66条)、医師の意見聴取(第66条の4)、就業上の措置(第66条の5)、個人票の5年保存(第66条の3)までが一連の仕組みです。労働者にも受診義務があり(第66条第5項)、罰則は事業者側に向けられています。項目の省略は医師の個別判断によるべきで、年齢による一律省略は不適切です。2027年4月からは血清クレアチニン検査が追加され、喀痰検査が廃止されます。

次回は、こうした仕組みが裁判の場でどう評価されるのかを整理します。「知らなかった」がなぜ免責理由にならないのか、努力義務をどう位置づけるべきか。ここが理解できると、規程整備の優先順位がはっきりします。どうぞお楽しみに!

次回予告

第4回「「知らなかった」が免責にならない理由 — 予見可能性・結果回避義務・立証の3層構造」。把握の仕組みを持たないこと自体が過失と評価される構造、努力義務の法的性質、そして裁判所が求める体制・運用・記録の3層を確認します。

 

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