こんにちは、分かりやすさNo.1 社労士の先生の先生、岩﨑です!
連載もいよいよ最終回です。健康労務の実務でもっとも紛争になりやすいのが休職と復職、そして最終的に勝負を分けるのが記録です。この2つをまとめてお届けします。
休職制度は任意制度である
休職制度は法律上の義務制度ではなく、企業の任意制度です。だからこそ設計の自由度が高く、同時に、運用を誤ると解雇の有効性をめぐって多額のバックペイが発生します。
近年の設計思想は、休職を「解雇の猶予期間」から「復帰への助走期間」へと転換させる方向にあります。採用難のなかで、経験ある人材を疾病のみを理由に失うことの損失が大きいためです。
復職判定権を会社に留保する
実務でもっとも多い行き違いが、主治医の診断書をめぐるものです。主治医が「復職可能」と診断した場合でも、それは日常生活が可能である旨を示しているにすぎない場合が少なくありません。片山組事件(最高裁平成10年4月9日第一小法廷判決)の枠組みに基づき、従前の業務を行えるか、又は配置可能な軽減業務が存在するかという職務適合性の判定権限を、会社に留保しておく必要があります。
そのために、産業医の意見聴取と、主治医への情報照会に対する労働者の協力義務を条文に設けます。復職に際して一定期間、勤務時間の短縮や業務内容の変更等の就業上の措置を講じうる旨も明記しておきます。
通算規定 — 文言外の類推適用は認められない
メンタルヘルス不調は再発性が高いため、多くの企業が通算規定を置いています。復職後一定期間内に同一又は類似の事由により再び休職するときは、前後の休職期間を通算するという規定です。野村総合研究所事件(東京地裁平成20年12月19日判決)では、復職後6か月以内に同一事由で再欠勤した場合に前後を通算する就業規則変更の合理性が認められました。
他方で、規定の文言が足りずに会社が敗れた事案があります。就業規則に「休職期間の途中で復職した者が再休職した場合に通算する」としか規定されていなかった事案において、労働者が休職期間の満了日に復職し、約1週間後に再欠勤しました。
会社は通算規定を類推適用して自然退職扱いとしましたが、裁判所は、文言上、満了後の復職は対象外であり類推適用も認められないとして自然退職を無効とし、1,000万円を超えるバックペイの支払いを命じています。教訓は明快です。裁判例は文言外の類推適用を厳格に排除するため、規定には「休職期間の満了後に復職した場合を含む」という文言を明記しなければなりません。
あわせて、適用除外の設定にも注意が必要です。休職は会社が命令する措置であるため、適用除外とした労働者、たとえば試用期間中の者や勤続1年未満の者に対しては、本人の同意なく休職を命じることができません。欠勤が続いた場合に休職による解雇猶予手続を経ずに普通解雇を行わざるを得なくなり、解雇予告手続や解雇権濫用(労働契約法第16条)の争いに直面します。適用除外範囲は慎重に設定してください。
従来型と両立支援型の休職規定の比較
| 論点 | 従来型の休職規定(解雇猶予型) | 両立支援型の休職規定(復帰助走型) |
|---|---|---|
| 休職の開始 | 欠勤○日到達で自動休職(カウント方式でトラブル化) | 欠勤到達後、面談・手続を経て会社が休職を命令(書面交付) |
| 休職期間 | 全員一律に設定し、柔軟性がない | 勤続年数別に設定し、会社判断による延長の余地を残す |
| 復職の判定 | 主治医の診断書のみを判定材料とする | 主治医意見に産業医意見と会社の職務適合判断を重ねる |
| 復職後の配慮 | 条文上の規定がなく、即座に通常業務を要求 | 勤務時間短縮、業務軽減、段階的復帰を条文に明記 |
| 期間満了の効果 | 一律に退職処理(復職可能性の検討不足) | 試し出勤や配置換えの可能性を検討した上での自然退職整理 |
| クーリング期間 | 通算規定がなく、形式的復帰により期間がリセット | 満了後復職を含み、○か月以内の再休職は通算すると明記 |
運用を仕組み化する4つの様式
安全配慮義務の履行を客観的に証明するには、担当者の運用能力に頼るのではなく、手続を実行すれば自動的に記録が残る仕組みが要ります。最低限、次の4つの様式をそろえておきたいところです。
運用を仕組み化する4大様式
| 様式 | 位置づけ | 実務機能 |
|---|---|---|
| 両立支援申出書・主治医意見書 | 入口の様式 | 本人の両立支援希望と、主治医による医学的情報・配慮の必要性を書面で取得する。主治医への情報提供・照会に対する本人の同意も同一書面内で取得する |
| 両立支援プラン・個別対応計画書 | 中核の様式 | 主治医および産業医の意見を踏まえ、会社が決定した措置(勤務時間短縮、時差出勤、業務軽減、期間、見直し日)を1枚に集約し、労使双方が署名・捺印して保管する |
| 定期面談記録簿 | 定点の様式 | 措置開始後、月1回又は期ごとに行う本人・人事・上司による面談の日時、出席者、聴取内容、決定事項を記録する |
| 就業上の措置に関する医師の意見書 | 判断の様式 | 健診後の事後措置や面接指導において、産業医が通常勤務可・就業制限・要休業のいずれかを指示したことを証明する |
記録の3原則
第三者が事後的に対応を検証する場面で、立証力を決定づける記述の原則が3つあります。第1に、事実と判断を分けて記述することです。本人が訴えた客観的事実、本人の希望、会社の判断とその理由を、明確に区別して記載します。第2に、申出から措置、定期面談、見直しまでの経過を日付順に一覧化した経過表を1枚作成することです。個別書類の不揃いな束よりも、1枚に集約された経過表のほうが、裁判上はるかに高い立証力を持ちます。
そして第3に、これがもっとも見落とされるのですが、「措置を行わない」と決定した理由こそ記録に残すことです。労働者からの要請に対し、事業上の実現可能性や現場の安全性の観点から見送ると判断した場合こそ、どのような議論を経てその結論に至ったかという検討の痕跡を残しておく。検討を重ねたプロセスの痕跡そのものが、配慮を尽くしたことの証拠になります。
年間の運用カレンダー
規程を作って終わりにせず、年間を通じて実施と記録の保守を行うことが、安全配慮義務の完全履行を支えます。目安として、次のような年間の流れで点検するとよいでしょう。
健康労務の年間運用カレンダー
| 時期 | 主な取組 | 実務上のチェック事項 |
|---|---|---|
| 04月〜06月 | 定期健康診断の実施、両立支援・高年齢者措置の年間計画作成 | 問診票の様式の確認、高年齢労働者の受診状況の把握、2027年4月に向けた健診機関との項目調整 |
| 07月〜09月 | ストレスチェックの実施、医師の面接指導の調整、記録整備 | 受検率の確保、高ストレス者への面接指導の勧奨、面談記録の保存 |
| 10月〜12月 | 職場環境改善の実施、管理職研修、高年齢労働者の職場環境点検 | エイジアクション100(高年齢労働者の安全と健康を守るための実践的なチェックツール)等を活用した現場点検、ラインケア研修の実施 |
| 01月〜03月 | 年間記録の棚卸し、規程・様式の見直し、次年度計画の策定 | 4大様式の保管状態の監査、法改正に伴う規程の微修正、衛生委員会での総括 |
6回を振り返って
労務管理上の健康管理は、福利厚生の枠組みを完全に脱却し、事業継続のための必須の経営基盤となりました。昭和の最高裁判決から積み上げられた安全配慮義務の判例法理は、令和の法改正によって、治療と仕事の両立支援、高年齢労働者の労災防止、ストレスチェックの全事業場義務化という具体的実務へと具現化しています。
2026年から2028年の連続した改正を1本の線として読み解き、先回りした制度整備を実行することこそが、健全な職場環境づくりの最善の道筋です。本連載が、日々の実務の一助となれば幸いです。全6回、お付き合いいただきありがとうございました!
連載全体の総括
健康管理は経営条件へと位置づけを変え、安全配慮義務は判例法理から明文の規定へ、さらに具体的な制度運用へと展開してきました。実務の鍵は3点です。
第1に、裁判例の厳格な文言解釈に耐えうる規程を整備し、休職を「退職への出口」から「復帰への助走期間」へ再定義すること。
第2に、4大様式を用いて運用と記録が自動的に残る仕組みを確立すること。
第3に、健康診断からストレスチェック、両立支援までを年間の運用として保守し続けることです。
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