第4回 「知らなかった」が免責にならない理由 — 予見可能性・結果回避義務・立証の3層構造 <連載>労務管理と健康管理の実務 — 2026年から2028年の法改正を読み解く(全6回)

こんにちは、分かりやすさNo.1 社労士の先生の先生、岩﨑です!

規程を整えるとき、どこから手をつけるべきかという判断は、裁判所が何を見ているかを知っていると格段にやりやすくなります。第4回は、安全配慮義務違反が認定される構造を分解します。

2つの軸 — 予見可能性と結果回避義務

民事上の損害賠償責任において、安全配慮義務違反すなわち過失の有無を判断する軸は2つです。1つは予見可能性、すなわち会社が労働者の健康障害の発症や悪化という危険を認知できたか、あるいは認知すべきであったかという点です。健康診断結果、ストレスチェック、長時間労働者への面接指導、本人からの申出は、いずれも会社が労働者の状態を知るための仕組みとして機能します。

もう1つが結果回避義務、すなわち知り得た危険に対して回避措置を講じたかという点です。勤務時間の短縮、配置転換、作業環境の改善、安全衛生教育の実施などが、これに該当します。

把握の仕組みを持たないこと自体が過失になる

実務上とりわけ重要なのは、「会社が状態を知らなかった」という主張は免責理由にならないという点です。

健康状態や過重労働の実態を把握する体制・仕組みそのものを持たないこと自体が、把握義務違反・予見義務違反として使用者の過失と評価されるからです。相談を受けたときに「気づかなかっただけで、悪意はなかった」と説明される顧問先は少なくありませんが、その説明は法的には通りません。仕組みの有無を問われている、という理解が出発点になります。

努力義務は「やらなくてよい」ではない

行政法上の改正で課される努力義務、すなわち「〜努めなければならない」という規定は、決して任意事項を意味しません。努力義務は将来の完全義務化への予告であり、民事訴訟においては、指針やガイドラインへの不適合それ自体が、安全配慮義務違反を構成する強力な過失評価根拠となり得ます。

2026年4月に努力義務化された両立支援や高年齢労働者対策についても、「まだ努力義務だから様子見で」という説明は、リスク管理の観点からは正確ではありません。

裁判所が求める立証の3層構造

また、民事裁判において安全配慮義務を履行したことの立証責任は、事業者側に課されます。裁判所は使用者の履行状況を、次の3層で検証します。

安全配慮義務の履行を立証する3層構造

問われる内容 整備すべきもの
体制 ルールがあるか 就業規則および附属規程において、責任者、手続、権限が明確に定められていること。
運用 実施しているか 定めた規程に従って健康診断、面談、医師の意見聴取、就業上の措置が実行されていること。
記録 証跡が残されているか 実施内容、検討過程、決定事項、措置状況が書面又は電子データとして保存されていること。

どれほど適切な運用を行っていたとしても、記録が存在しなければ、裁判上は「運用を行っていない」と同義に判定されかねません。担当者の記憶や熱意に依存させず、手続を実行すれば自動的に記録が残る仕組みをつくること。これが実務設計の勘所です。証跡の具体的な残し方は、最終回で扱います。

第4回のポイント

安全配慮義務違反は、予見可能性と結果回避義務の2軸で判断されます。「知らなかった」は免責理由にならず、把握する仕組みを持たないこと自体が過失と評価されます。努力義務は任意事項ではなく、指針への不適合が過失評価の根拠となり得ます。立証責任は事業者側にあり、体制・運用・記録の3層で検証されます。

次回は、いよいよモデル規定です。両立支援、高年齢労働者の安全確保、健康情報等の取扱いの3本について、条文案と設計上の勘所を解説します。どうぞお楽しみに!

次回予告

第5回「モデル規定の設計 — 両立支援・高年齢労働者・健康情報の3本立て」。努力義務段階における条文の書き方、申出主義を採る理由、主治医意見と会社の決定権の切り分け、そして健康情報等取扱規程の骨子を整理します。

 

■誰よりも顧問先を大切にしたい社労士の皆様へ!
「3アカデミー」オンラインサロンでは、さらに踏み込んだノウハウも共有していますので、ぜひご参加ください!
↓↓↓
https://academy.3aca.jp/2024a/