第5回 モデル規定の設計 — 両立支援・高年齢労働者・健康情報の3本立て <連載>労務管理と健康管理の実務 — 2026年から2028年の法改正を読み解く(全6回)

こんにちは、分かりやすさNo.1 社労士の先生の先生、岩﨑です!

ここからは実際の条文づくりです。第5回は、2026年4月施行の改正に対応する3本の規定を取り上げます。条文そのものより、なぜその書き方を選ぶのかという設計思想のほうが重要ですので、そこを中心に解説します。

モデル規定1 治療と仕事の両立支援規程

改正労働施策総合推進法に基づく治療と就業の両立支援指針に対応するための根拠規定です。

第○条(治療と仕事の両立支援)

1 会社は、労働者が疾病の治療を続けながら就業を継続できるよう、必要な配慮に努める。

2 治療との両立のための配慮を希望する労働者は、所定の申出書により会社に申し出るものとする。

3 会社は、前項の申出があったときは、労働者の同意を得て主治医等の意見を求め、就業上の措置(勤務時間の短縮、時差出勤、在宅勤務等)の要否及び内容を決定する。

4 会社は、決定した措置の内容及び実施状況を記録し、保存する。

第1項は、努力義務の水準に合わせた書き方です。確約型の「措置を講ずる」ではなく「配慮に努める」とし、事業規模や業務の性質に応じた判断の余地を残しておきます。完全義務化が施行された段階で文言を改めれば足ります。

第2項は申出主義を採っています。プライバシー配慮の観点から、会社が一方的に健康状態を探索するのではなく、本人の申出を起点とすることで、会社が健康状態を把握する端緒を制度化する趣旨です。第4回で見た予見可能性に対する法的備えが、ここに当たります。

第3項の要は、主治医の意見聴取を必須としつつ、最終的な就業上の措置の決定権は会社にあると明記する点です。主治医は職場の業務実態を把握していないことが多いため、その判断を鵜呑みにせず、産業医意見等を挟んで会社が決定する枠組みを維持します。ここを曖昧にしたまま診断書だけで措置を決めている企業は、後の復職判断でも同じ問題に直面します。

第4項は記録保存義務の明記です。「記録し、保存する」の一文を条文に入れておくことで、担当者の個人的な資質に依存せず、立証構造の第3層である証跡の保存を仕組み化できます。

モデル規定2 高年齢労働者の安全確保規定

改正労働安全衛生法第62条の2および高年齢者の労働災害防止のための指針に対応する規定です。

第○条(高年齢労働者の安全と健康の確保)

1 会社は、高年齢労働者の労働災害を防止するため、施設、設備及び作業方法の改善その他必要な措置の実施に努める。

2 会社は、高年齢労働者の体力及び健康状態の把握に努め、その状況に応じて、担当業務、勤務場所、勤務時間等を調整することがある。

3 会社は、前2項の措置の検討及び実施に当たっては、国の指針等を参考にし、実施内容を記録する。

設計上の勘所は3つあります。第1に、対象年齢を条文に固定しないことです。「60歳以上」等の具体的な数字を書き込まず「高年齢労働者」と包括的に規定し、運用基準は別表や運用要領で定めておきます。身体機能や体力の低下には著しい個人差があるためです。

第2に、把握と業務調整を同一条文内で連動させることです。体力チェックや健康診断による状態把握と、勤務場所や担当業務の変更という就業上の措置を結びつけることで、会社が職務調整を行う法的根拠を確保できます。

第3に、高年齢者の労働災害防止のための指針等を参照する旨を規定し、自社の措置水準が国の推奨する標準を満たしていることを客観的に担保することです。

モデル規定3 健康情報等取扱規程の骨子

労働安全衛生法第104条に基づき、事業者が取得した心身の状態に関する情報を適切に取り扱うための規程です。この規程が整備されていないと、労働者はプライバシー侵害を恐れて健康情報の開示やストレスチェックの受検を躊躇し、両立支援制度全体が機能不全に陥ります。3本のなかでは地味ですが、他の2本を動かすための土台にあたります。

健康情報等取扱規程の骨子

構成条項 定めるべき具体的実務内容 法的留意点
目的・法的根拠 労働安全衛生法第104条に基づく心身の状態の情報の適正な取扱いの明確化 労働者のプライバシー保護と、事業者による適切な安全配慮の可否を左右する
取扱者の範囲 人事担当者、衛生管理者、産業医・保健師等に限定 目的外の共有を厳禁し、直属上司への無制限な病名開示を防止する
情報の収集手続 本人同意を原則とし、利用目的(就業上の措置)を特定して収集 要配慮個人情報に該当するため、同意取得の様式化が必須となる
情報の利用・加工 就業上の措置に必要な範囲に限定し、具体的な診断名等は要約・加工 上司には病名ではなく勤務上の配慮事項のみを伝える運用を徹底する
保管および廃棄 アクセス制限、施錠保管、保存期間(5年等)と廃棄手順の明示 情報漏えい時の民事損害賠償リスクおよび行政指導を回避する

第5回のポイント

両立支援規程は、努力義務段階では「配慮に努める」とし、本人の申出を起点として会社が把握する端緒を制度化します。主治医の意見は聴きつつ、決定権は会社に留保します。高年齢労働者の規定は対象年齢を条文に固定せず、状態の把握と業務調整を連動させます。健康情報等取扱規程は、取扱者の限定と、上司へは病名でなく配慮事項のみを伝える運用が要点です。

次回は最終回。実務上もっともトラブルになりやすい休職・復職規定と、証跡管理の具体策を扱います。就業規則のわずかな文言の差が1,000万円を超える差になった裁判例もご紹介します。どうぞお楽しみに!

次回予告

第6回「休職・復職規定と証跡管理 — 「解雇の猶予」から「復帰への助走」へ」。復職判定権の留保、通算規定をめぐる裁判例の教訓、従来型と両立支援型の比較、4大様式と記録の3原則、そして年間の運用カレンダーまでを整理します。

 

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