第4回:いま労働基準法が抱える3つの構造的課題 <連載>労働基準法・改正の40年史と2026年大改正の行方(全6回)

2025年・令和7年「労働基準関係法制研究会報告書」が指摘するもの

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!

ここまでの3回で、約40年の改正史をたどってきました。第4回からは、いよいよ「これから」の話に入ります。

2026年に向けた改正の議論を理解するには、まず、いまの労働基準法がどこで実態とずれているのかを知る必要があります。 手がかりとなるのが、2025年・令和7年1月8日に厚生労働省が公表した労働基準関係法制研究会報告書です。この報告書は、3つの構造的な課題を鋭く指摘しています。

課題1 「労働者」とは誰か ― 第9条の概念と実態の乖離

第1の課題は、労働基準法第9条が定める労働者という概念が、実態とずれてきていることです。

プラットフォームワーカー、いわゆるギグワーカーやフリーランスなど、雇用契約という形式をとらないまま、実態としては労働者にきわめて近い働き方をする人が急増しています。

労働者かどうかの判断基準が示されたのは1985年、昭和60年の研究会報告です。あれからおよそ40年が経ちました。その間に、AIやアルゴリズムによる労務管理のデジタル化が進み、労働者と非労働者の境界はきわめて曖昧になっています。

誰を法律で守るべき労働者とみなすのか。その入口の定義そのものが、いま問われているのです。

課題2 「事業場」とは何か ― 場所を前提とした枠組みの限界

第2の課題は、労働基準法を適用する単位である事業、すなわち事業場という概念の限界です。

テレワークの普及によって、働く場所という制約はどんどん希薄になりました。さらに、デジタル空間の上でのみ業務が完結する形態まで現れています。

労働基準法は、物理的な場所としての事業場を前提に組み立てられています。労務管理も、労働基準監督署による指導も、その前提に立っています。

しかし、働く場所が溶けていくなかで、その前提自体が実態に合わなくなりつつあるのです。

課題3 集団的労使コミュニケーションの機能不全

第3の課題は、社労士の先生方にとって最も実務的に重い論点かもしれません。集団的な労使コミュニケーションの機能不全です。

労働基準法における柔軟な労働時間制度、つまり36協定、変形労働時間制、裁量労働制などは、いずれも過半数労働組合または過半数代表者との労使協定によって、法定の基準を調整・代替することを前提としています。

法律の例外を、現場の労使の合意で認めるという仕組みです。ところが、その前提となる労使の合意の基盤が、いま大きく揺らいでいます。

つまり、法律は「労使の合意があれば例外を認める」と言っているのに、その合意の主体である労使コミュニケーションそのものが、多くの中小企業では実質的に機能していないのです。柔軟な制度の土台が空洞化しているとも言えます。

数字で見る労使コミュニケーションの危機
労働組合の推定組織率は、2023年で16.3%にまで低下しました。

多くの事業場では、そもそも過半数労働組合が存在しません。組合がない事業場で労使協定の当事者となるのが過半数代表者ですが、選出手続の不透明さ、労働者の意見を集約する基盤の欠如、使用者に対する交渉力の弱さなどが指摘されています。

令和7年の調査では、従業員1人から9人の事業所で労働組合がない割合は96.6%に達しました。さらに全国中小企業団体中央会の調査では、従業員数1人から300人の中小企業のうち、労使の意見を収集し協議を行う機会や場を特に設けていないとする事業所が68.2%にのぼっています。

3つの課題を一覧で整理する

労働基準関係法制が直面する構造的課題

課題問題の所在なぜ重要か
労働者概念第9条の労働者概念が、ギグワーカーやフリーランスの実態とずれている誰を保護の対象とするかという入口の問題
事業場概念テレワークやデジタル空間での業務に、場所を前提とした枠組みが対応できない労務管理と監督行政の前提が崩れる
労使コミュニケーション組織率の低下と過半数代表制の機能不全により、労使合意の基盤が空洞化柔軟な労働時間制度の正当性そのものに関わる

この3つの課題は、ばらばらの問題ではありません。いずれも、工場モデルを前提に作られた労働基準法が、多様化・デジタル化した働き方に追いつけていない、という同じ根を持っています。

だからこそ、2026年に向けた改正の議論は、小手先の手直しではなく、基礎概念の再定義にまで踏み込もうとしているのです。

▶ 次回予告

次回・第5回は、2026年改正の核心の前半に踏み込みます。

テーマは「労働からの解放」。勤務間インターバル制度の義務化、13日を超える連続勤務の禁止、法定休日の特定義務化、そしてつながらない権利です。

「最長労働時間の規制」から「労働からの解放時間の保障」へ。労働時間法制の発想が、根本から変わろうとしています。

 
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